がん克服シンポジウムでいただいた質問と回答
子宮頸がんワクチン接種の一時中止により、10年後の子宮頸がんで亡くなる方が懸念されていますが、キャッチアップ接種・子宮頸がん検診PR等で何とか追いつくのでしょうか。それとももっと日本としてしっかり考えなければならないのでしょうか。 |
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<勝田先生> 大変重要なご質問をありがとうございます.HPVキャッチアップは,今の日本にとって非常に重要な課題だと思います. 残念ながら,講演会にご参加いただいた方達のようにHPVワクチンに興味を持ってくださっている方は意外に少ないのが現状です.しばしば,「HPVワクチンについて,かかりつけ医と相談をしましょう」と言われますが,実は学校や仕事で多忙な10-20歳代の方達は,ほとんとかかりつけ医を受診する機会がありません.例えば,海外では養護教諭による学校での啓発活動などが行われています.職場検診での産業医による啓発なども有効だとおもいます.その他,最近はテレビCMでも啓発が行われています.大切なことは,正しい情報を正確に繰り返し提供する機会を維持することだと思っています. <今野先生> 日本は世界で最悪の遅れをとっていますので、世界で最大の努力をする必要があります。 大変な努力をしても、本当に追い着けるのかどうか大変心配です。皆さんの接種と国や自治体の努力が鍵です。以下のスライドをご参照ください。 |
HPVワクチンを打てば、絶対にHPV感染しないのですか。 感染する確率をぐっと下げるということですか。 |
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<勝田先生> こちらもとても重要な質問ですね.HPVワクチンによるHPV感染予防効果は残念ながら100%ではなく90%とされています.少し複雑になってしまいますが,これは100人がHPVワクチンを接種すれば90人が感染しない,という意味ではありません.HPV ワクチンを接種した人としなかった人を比べた場合の感染リスクを90%低下することができるという意味です.もう少しわかりやすくいうと,HPVワクチンを接種しないままHPVに感染してしまった人の90%はワクチンを接種していれば感染しないで済んだ,ということです.少し,難しいですね. ちなみにインフルエンザワクチンの感染予防効果は概ね50%くらいと言われていますので,HPVワクチンの効果はワクチンの中では優等生と言えます. <今野先生> 絶対感染しないとは申していません。HPVの16・18型の感染予防はほぼ100%で、子宮頸がんの予防は80-90%程度です。HPV16/18以外の感染や原因不明で癌になる方もごく少数います。100%効果のあるワクチンや医薬品など世界中のどこにもありません。例えば、抗癌剤は癌患者の20%にしか効果がなくとも薬として承認されます。 癌を80%も予防する薬や方法は、これまでの史上何処にもありませんでしたので、信じられないかもしれません。いま、年間1万人発生している子宮頸がん患者が1000人、つまり、1/10になることは本当に画期的なことなのです。HPVワクチンは今使用できる他のワクチンの中で、最も安全で最も効果的なワクチンです。それでも、ワクチン接種後も大人になったら検診を必ず、受けてくださいというのは、2重の安全策なのです。 |
子供が11カ月の時、三種混合ワクチン接種後、熱性けいれんで入院しました。小学校にあがるまで熱性けいれん重積がおきていたのでワクチン接種がとても不安です。 |
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<勝田先生> けいれんはとても怖いですよね.でも,幸い熱性けいれんは年齢と共に発症しにくくなることが知られており,HPVワクチンの接種適応年齢である小学校6年生以降で熱性けいれんを発症することはほとんどありません.もしご心配でしたら,接種前にかかりつけの先生と十分事前相談することをお勧めします. <今野先生> 熱性けいれんとワクチンの関連は一般的には考慮しなくて結構です。ただし、接種前に接種医に話しておくこと、接種後も心配があれば直ちに受診して相談することをお勧めします。HPVワクチンに限らず、思春期(男女ともに)に接種に対する不安が理由で接種前、中、後(15分以内)にけいれん重積と似たような症状である「失神」が起きることがありますが、これは立っていないこと、15分以内は医療機関内にいることで、大事にはならず、すぐに直ります。「よくわからない症状」を「ワクチンのせい」と結びつけることは避けましょう。すべてのワクチンのメリットを失ってしまいます。HPVワクチンでもコロナワクチンなど、他のワクチンでも、重症の有害事象(ワクチンが原因と限らず)は、10万接種に1例程度です。 |
9価の実績(有害事象、副反応)については4価と同様と考えてよろしいでしょうか。 |
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<勝田先生> 両方等も同じワクチンメーカーが作ったワクチンですが,全く同じワクチンではないので,正確には有害事象や副反応も全く同じとは言えません.ただし,基本的な組成は類似しており,また海外においては既に多くのHPV9 使用実績もあり,新たな有害事象や副反応は報告されていません. <今野先生> 有害事象や副反応はほぼ同等です。9価のほうが含まれるワクチン成分の量が多いので、局所の痛みなどはやや多めですが問題にするほどではありません。効果は臨床試験の結果においては、子宮頸がんの予防効果として9価のほうが4価を上回っています。そもそも、9価は4価の改良版です。しかし、実際に現場で使用したリアルワールドデータでは、差がありません。2価も差がありません。2,4,9というのは効果の説明ではありません。個人の選択としては、どれを選んでも結果的に損をするということはありません。ただし、ワクチン接種後も大人になったら検診を必ず、受けてください。 |
ご自身に娘さんがいらしたら、今日のお話を全てされますか?(今日のお話を全てするとしたら何歳位でしょう?) |
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<勝田先生> 自分の娘には小学校6年生の時に接種しました.その際にはまだ6年生であったということもあり,本人には今回の講演と同じ話を全て説明した訳ではありません.一方で,妻にはどんな点が心配であるかを尋ねて,そのひとつひとつを丁寧に説明しました.何歳で接種する場合であっても,まずは接種を検討している方がHPVワクチンのどんな点が心配であるかをこちらからまず質問し,それに対して丁寧にお答えすることが重要であると考えています. <今野先生> 私には娘が3人います。日本でHPVワクチンが初めて使えるようになった当時、娘は、大学生、高校生、中学生でしたが、全て話して、理解を確認したうえで、接種しました。小学6年生以上であれば、その年齢に合った説明をすれば理解できると思います。小学校ではすでに学校で習っていることですから。しかし、乳幼児から思春期の子供のいずれにおいても、あるいは大人さえも、病気やワクチンのことを完全に理解できるわけではありませんし、その必要はありません。どの親にとっても、「子供が病気にかからずに、健康で生涯を送る」ことが願いであり、そのための準備として重要な医学的方法であるワクチン接種を促すことは、責任でもあると思います。難しくしてできないと思う方もいらっしゃると思いますが、その場合はかかりつけ医や自治体担当者、対がん協会などの力を借りて、説明をうけることも一方です。日本がもっと国民に親切な国に成ってほしいと願います。日本の子供だけが、このワクチンの接種を受けずに将来、癌になったり、死んだりすることを許せますか? |